現在クライアントの中では最高齢男性(81歳)の建築士であり大学教授のケースであります。
お会いした時から ? と思い表情、姿勢、諸動作からパーキンソン病の可能性があると思い、医療機関への診察を勧めた所その通りでした。それから既に7年が経ちました。

振戦(ふるえ)と仮面表情、そして関節のこわばりがありましたが、そんな症状に負けじと週1のゴルフ、週2のテニスとアクティブシニアの代表となる過ごし方をしていました。最初4年ほどかけて運動機能の向上に成功し、当初の症状は無くなるほどでした。その後に投薬効果の効かない時期(オフ)が生じ始め、歩行能力低下や時々筋肉や関節が固まってしまう(無動)症状が現れました。でもいつもニコニコしているんです。朗らかなんです。
パーキンソン病ではなく、きっとアル中なんだよなんてケケケと笑ったり、介護認定(要支援2)をもらい機能訓練型デイサービスで歩行能力のテストで断トツのパフォーマンスをすると「そんなに早く歩かないで下さいね」なんて不条理な注意を受けるほどでした。

その頃からスポーツクラブでの指導から在宅指導に切り替え、後半の3年が経ちます。ゴルフやテニスのフォーム改善を気にしている姿は飽くなき学習意欲、上達志向の現れでとても参考になります。流石にお部屋の中で壁打ちテニスしている時はびっくりしましたが。このクライアント様とは、ある種の共通言語があり、その専門家と会話を交わす事は知的興奮が高まります。この方の専門は建築での構造力学です。私はトレーニングでの力学的思考(荷重、バランス、モーメントなど)を必要と考えています。水中運動指導で水力学(浮かんだ船はなぜ横に倒れないのかなど)を学んだ事で、エクササイズの説明理解を例えたりします。お互いに力学的談義に花が咲く事もしばしばです。指導者として小さなプライドがありますが、トレーニング中でも、このままもっと教授の話を聞きたい時もありますね。

ご家族のサポートも必要不可欠です。特にお二人暮らしの奥様です。毎晩の排尿時の移動介助を数回しなければなりません。夜や運動後にはオフ(薬の服用効果が低くなる事)になりやすくなってきています。それでもご家族を含めてニコニコしているんです。大変なのに。
苦労ではあっても、苦痛ではないという生き方です。限られた人生の中で『生きる覚悟』を持って生きていく。映画ラストサムライの最後に、トム・クルーズが天皇陛下に盟友武将勝元の死を申言する場面「死に様ではなく、生き様をお話ししましょう」がありますね。このラストサムライと81歳の生き様が重なります。

やはり死生を捉えることで現世の大事さが出るような感じです。不老不死よりも命のはかない部分を感じ、真摯に身体に取り組むクライアント様には敬服します。以前より行動範囲は狭まり、オンオフの体調の波は険しくなりつつあります。投薬の選定を医師に随時相談し、その量や服用時間の工夫をし、その身体効果や体調維持が可能な場面も出てきます。勿論、家庭内でできる運動機能の維持も工夫しているでしょう。例えばお散歩は、ノルディックウォークのように、ストックを両手に持ち行います。
アプリのピッチコントローラー音に合わせ、心拍数管理しながらウォーキングして頂きます。介護ベッドも手すりも階段もトレーニング器具の一つとして考えます。立つ、座る、歩くを乳児に備わっていくように身体の再学習をニコニコしながら継続していく姿をいつも応援しています。”老いる”とは朽ちていくイメージではなく、木々の年輪が増えるがごとく、円熟していく事なんだ、とこのクライアント様から気づかされました。